十日夜の章

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  俺の言葉に主が身を強張らせる。 「この雪は命を賭けた者のみを受け入れるだろう。…お前は此処で少し待っていろ」 震えながら縋りつく主をすり抜け、春の嵐の中に身を投じた。 水気を多く含む雪が雨のように降り注ぎ、視界を白一色に染める。 お陰で近くにある筈の江戸城も見えない。 しかしこんな空だと言うのに、江戸城の周りには武鑑を手にした駕籠見物の人間が集まっていた。 ささやかな賑わいの中、遠くから大勢の足音が聞こえる。 暫く見ていれば、五十程の人間を従えた豪華な駕籠が雪の中に現れた。 俺の隣に立っていた男の呼吸が徐々に荒くなる。 ――始まるか。 隣の男は一度息を整えると雨合羽を脱ぎ捨て、刀を抜き、駕籠の行列へ向かって行った。 「きゃあああ!」 「ひいぃ!!」 悲鳴を上げ、蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う群集の間から、見物客に紛れていた男達が次々と刀を手に駕籠を襲撃する。 「何だ貴様等は!大老の駕籠と知っての狼藉か!」 襲撃犯は二十に満たぬ程。 駕籠を守る者も強者揃い。 襲撃側が圧倒的に不利に見えた。 ――俺が此処にいなければの話だが。  
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