十日夜の章

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  致命傷を受けた男は倒れ込みながらも刀を振るう。 仲間の助けもあり、男はふらつきながら騒ぎの場から姿を消した。 「…何処で死のうと同じだろうに」 昨日の男と襲撃犯に繋がりはない。 昨日の男に害は無いだろうと思っていたが、俺からの「厄」は偶々隣に立った其奴に行ったらしい。 …己の力も把握出来んとは中々厄介だな。 いや、それ以上に己の気まぐれ加減が把握出来ん。 ただ、昨日の男が言う若者達の行く末とやらを暇潰しに見てやっても良いだろうと思っただけなのだが。 「…騒がしい世になりそうだ。全く煩わしい」 襲撃犯が全て引き上げると、辺りは真っ赤に染まっていた。 それでも血の匂いが遠くに感じるのは、この雪の所為だろう。 残された血濡れの首に雪が積もっていく。 それはまるで雪に落ちた椿のようだった。 「赤鬼が散る、か」 不意に昨日の男の顔が頭に浮かぶ。 仇の首が飛んだとの吉報を受けて、昨日の男はどの様な顔をするだろうか。 ――逢うて別れて別れて逢うて 末は野の風秋の風 みぞれ雪と共に、何処ぞから僅かに都々逸が聞こえた。 こんな刻に酒でも飲んでいるのか、それとも死者の歌声か。 「…どどいつ、どいどい」 旅籠に向かいながら都々逸を口ずさむ。 こんな雪の日なら、そんな機嫌の良い自分も偶には良いだろう。  
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