十日夜の章

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  感情、というものはまだわからん。 ただ、過去に出会った人間が俺に寄越した置き土産と言うものに強く興味を惹かれる。 この興味も感情と呼ぶのなら、俺は一つ感情を覚えたのだろう。 「女」 「女じゃない。私は…」 「先程妙な唄を歌っていたな。聞かせろ」 「…煩いって言ったのに」 肩までの髪の少女が童子のように頬を膨らませる。 かと思えば急に吹き出し、「いいよ」と笑った。 薄暗い座敷に、妙な節回しの歌声が響く。 よくよく聞けば、聞いたことの無い言葉も入り混じっていた。 少女の口から紡がれるそれらを、頬杖をつきながら眺めた。 童子のような髪をした、洋服の少女。 俺の知らない言葉。 時は、確実に進んでいる。 今この瞬間も過去となり、直に忘れ去るだろう。 俺が過去を振り返ったところで何が起こるとも思えんが、悠久の世の暇潰しとして、置き土産とやらを探してやっても良いかと思った。 …これもまた気紛れか。 少女の歌声を聞きながら目を閉じると、深い深い闇に呑まれていく。 …ああ、悪くない気分だ。 この妙な節回しの唄を、いつかは口ずさんでしまうのかもしれない。  
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