十三夜月の章

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  薄暗い座敷の中、文机に向かう少女の頼りない背中が行灯の火に照らされる。 「……」 「……」 少女は此処へ来てから俺に不味い茶を出し、文机を何処ぞから引っ張り出してくるとさっさと背中を向けた。 「…おい。座敷童に背中を向ける奴があるか」 「ん?ああ、ごめんごめん。もうちょっと待ってて。これやっちゃったら御茶請け出すから我慢してね」 「……」 自分の眉間に力が加わり、眉が寄っていくのを感じる。 我慢しろ、などと子供扱いしおって。 否、何故座敷童の俺が我慢などせねばならん。 そうだ。 俺はそのような立場の妖では無い。 「――女」 「待ってってば。これ、明日提出しなくちゃならないの。ああ、もう…!どうしよう、間に合わない…!」 「……」 一言物申してやろうと凄んでみたが無駄に終わった。 女は振り向きもせず、半ベソをかきながら乱暴に細い筆を動かすばかり。 いよいよ呆れて脇息にもたれ、焦るように忙しなく動く少女の背中を眺めていた。  
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