艶という姫

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「…月を、見てる?」 人影は、少女の隣の壁に寄り掛かる様に腰を下ろし、ちらりと様子を伺うように視線を向けた。 少女はそれには答えない。 声が聞こえていないのか、はたまた興味がないのか、その瞳はただ ぼんやりと外を見つめているだけ。 光のない瞳は深く暗い。 まるで、闇夜のそれのように感じられる。 「そなたの時間は、いつ動くのだろうな……」 少女の黒髪を一束手にとって顔を覘くと、少女の月の様な金色と目が合った。 手から黒髪がサラサラと音を立てて滑り落ち、少女の身体は青年の腕の中に堕ちる。 腕に抱き込むと、香るのは甘い香の香り。 首筋に顔をうずめ、胸いっぱいにその香りを吸い込む。 「艶…。 ーーーはやく、…早く、 お前の時が動き出せばいいのに……」 耳許で囁けば、その身体はびくりと反応し、髪が揺れる。
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