月の姫

序説

仰ぐ空も、吹く風も、何もかもが穏やかな夜。

嵐の前の静けさに包まれて、怯える少女は愛しい男の腕の中に守られていた。

優しく己を包む腕の中、空に浮かぶ鮮やかな青い水晶球を見ていた。

綺麗で儚く吸い込まれそうな青い輝き。

縋り付くお互いの手に知らずと力がこもる。

遠くで人の足音が響いた。
少数ではなく多数の。

その音はやがて近づき、邸の前でそれを止める。

今まで強く少年にしがみ付いていた少女の手の力が緩み、床に落ちるのとは逆に、少年はさらに強く少女の身体を抱く腕に力をこめた。

少女の身体が軋むほど。
少女の身体が壊れるほど。

一度止まった足音が再び動き出し、邸へと踏み入れる。

音が近づき部屋のかえで動きを止めると、一瞬の静寂が辺りを包んだ。