序説

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少年は、その姿をただ見ていた。 何もすることができずに。 今まで、数分前まで、自分の腕の中にいた愛しくて堪らない少女に、容赦なく刃が突き立てられるのを。 その四肢が力なく垂れ下がり、血がつたい、装束が真紅に染まって行くのを。 やがて体中から血の気の失せたその痩躯が、畳に転がりる。 糸の切れた人形の様にぐったりとして、その身体は二度と動くことはない。 近寄って、触れて、思いっきり抱きしめた。 『御離し下さい、若。汚れが移ります』 感情のない声に耳は貸さない。 自分の身体が、衣が赤く染まるととも気にはしない。 いっそこのまま同じように・・・。 少年の頭に一つの考えが浮かぶ。 この少女は誰にも、なん人にも渡したりはしない。
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