1将 篭城(ろうじょう)

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 目覚めると見慣れない小屋に寝かされていた。 『全身が痛む...。』  その時入口の扉が開き浅黒い逞しい男が顔を出した。 「もう起きて大丈夫なのか?  見つけた時は、屍かと思ったぞ。無事で良かった」 『助けて頂いてありがとうございます』 「童のくせに、声が小さい。 それに覇気が無いぞ!」 『私は、幼い頃から病弱で、生命力に乏しいのです』  細身で背丈が低く女性のような顔立ちに白い肌。  体の不利を精神力で補おうと隠れた努力を重ねていた。 『武士としては役立たず半人前の半兵衛と呼ばれています』 「すまなかったな、人はそれぞれにいろいろな事情を抱えて生きている。  生かすも殺すも己次第。  その体では心配だ。  住まいまで送って行こう。  名はなんと申す? 何処に住んでいる?」 『私は、竹中重元の次男です』  静かに言うと 相手は、少し驚いた。「菩提山城の若殿様か?  俺は、牙(キバ)という。  武士では無いが数々の戦場に借り出されてきた。  だが人を切るのが虚しくなった。  今はこの山で気楽に暮らしている」 『牙様、私に剱術を教えて下さい』  技を磨きたい一心で願い出る。 「俺の剱は、我流、何処かで学んだわけでも無い。  生き残る為に戦場で身につけたものだ。  それに重元様がなんと言うか...」  牙は、重治を背負い菩提山城に向かうことにした。  城に着くと心配していた重元が、出迎えた。 「牙殿のおかげで重治は、命を救われました。  是非、重治の剣の師となって下され!」  牙は、我流だが小兵でも賄える一撃必殺の剱術を重治に教え込んだ。  何より明るい性格と素直で単純な考え方に重治は、共感して話し相手とすることで悩みを克服しつつあった。 『上善水の如し』 「また兵法ですな」 『軍が一体となり、水の如く変幻自在に陣形を変えることが出来れば、必ず勝利できるということです』 「しかし、どんなに訓練したって実際には、出来ないでしょう!」  牙の率直な感想であった。 『海が異国との接触を阻んで来た。  山が天然の城壁の役目も果たしている』
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