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留守を守るのは、女性 子供 老人、本来非戦闘員。
その日は、周辺の空気が不穏であった。
殺気が漂い、不気味な静けさ。
『敵襲だ!』
重治は、確信していた。
『敵が迫っている!守りを固めよ』
自ら弓を持ち敵襲に備える。
旗印を持たない正体不明の野武士の集団が菩提山城に迫っていた。
明らかに父の出兵を知り進軍している。
『情報が洩れていた?
監視されていた?
城外に出ては、不利。
ここは篭城するしかあるまい。
放て!』
命令と同時に自らも弓を射る。
冷静かつ必死であった。
矢は当たらなくとも敵兵の勢いを削ぐのに効果があった。
『城内の戦力は、50人も居まい。
敵は、戦慣れしている。
兵数は、ざっと200以上。
恐らくただの野武士ではあるまい。
近隣の敵対勢力。
長引けば不利。
ならば、短期で終わらせる!』
重治は、蔵に眠っていた銃を構え、放つ。
調達したは良いが誰も使いこなせず蔵に眠っていたものを重治が貰い受け日々実験と研究を重ねた結果、実践に投入できるまでになっていた。
ドォン
大きな銃声と共に一人の敵兵が、倒れ、敵の動きが一瞬止まった。
当時銃は高価でほとんど普及していない。
その音と威力に敵の勢いが急速に鈍化した。
すぐに落ちると考えていた城の守りが、おもいのほか固い。
断続的な矢と投石攻撃に阻まれ、城壁に取り付くことさえ出来ない。
兵の留守を狙い奇襲攻撃により無傷で城を落とすことが目的である。
「ここまで抵抗されては、被害が拡がるばかり退却じゃ!」
敵大将が、撤退命令を出す。
「菩提山城にはまともな兵力は、残っていないはずなのだが?
それにしては、隙の無い守備と見事な采配。
余程優れた、将が率いていたに違いない」
疑念を拭い去れずに敵は、残兵を取り纏めて退却していく。
重治は、用心深く敵が完全に引き上げるのを確認してから、勝利を確信して勝鬨をあげる。
城を守った者達は、喜び歓声を上げた。
女性と子供達だけで、倍以上の敵軍を破り退却させた。
頼りなげに見えた若殿重治の見事な采配を皆が称賛する。
「小さな大将は、思っていたよりずっと頼りになる」
皆の素直な感想であった。
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