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永禄5年、重治が19歳の時に、父が病没してその遺言により家督を継ぎ菩提山城主となった。
重治は、自ら望んで城主となったわけでは無い。
父の望みで跡目を継いだに過ぎなかった。
「親は親、子は子、己の信じる道を行け」と父から言い残されていた。
菩提山城も父が築いた城であり先祖代々のものではなかった。
『皆が思うように弟久作の方が、適任かも知れない。
時が来たら家督を譲ろう』
重治はひそかに決心していた。
自分には、生命力が無いゆえに野望を持たぬ。
軍略が好きで、兵法を極めていたが戦が好きな訳ではない。
人間とは矛盾した生き物である。
己の知略を戦乱の世を終わらせる為に役立てたい。
だが我は、武士として半人前。
人里離れた山奥で書物をひもとき大自然に囲まれて一人で一生隠者のような暮らしをするのも悪くないとも考える。
俗世間の争い事が何故だか煩わしい...。
女性のような綺麗で優しく色白な顔立ち。
小柄で長い槍を振り回す体力は無かった。
病弱で、高熱で倒れることもあった。
『我の生命力の無さ。長くは生きられまい』
常に自覚していた。
それゆえ、今を精一杯生きる。
信義を重んじる。
心根は強く生涯揺らぐことは無かった...。
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