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牙は、重治の命令で上杉と武田の動向を探り戻って来ていた。
『毘沙門天の化身』たる軍神上杉謙信。
最強の騎馬軍団を有する『風林火山』を旗印とする武田信玄。
『二大勢力の大大名には、残念なことに地の利が無い。
都から遠く上洛するためには、多くの敵国を通過しなければならない』
「どうやら、戦になりそうです」
牙の報告に重治は、『自国の守り、遠征の為の兵や兵糧 武器の確保。
甲斐の虎と越後の龍。
一度では決着しまい。
互いを好敵手と思い全力で何度も戦うことになるだろう。
そうなれば、その戦い自体が上洛を阻む一番の要素となる』
「二大勢力が、上洛出来ないとなるとやはり信長が、上洛を果たす可能性が増しますな」
牙が言うと
『謙信公や信玄公と会って、兵法について議論をしてみたいものだ』
二人には、共感出来るものがあると重治は考えていた。
それに比べると信長は、近年急速に勢力が拡大しているが、徹底した合理主義と成果主義、独裁者として残忍さが際立っていた。
冷酷で非道なる行い。
恐怖で人を支配することは出来ない。
信長公には徳が無い。
牙は「私は、信長の戦略は好きではありません。殿も同じなのですな?」
重治は、静かな眼差しで牙を見つめるが問いには答えず冷静に戦局を分析している。
織田氏が何度、攻めてこようとも、それを打ち破る秘策と自信が重治にはあった。
脳細胞は、活性化して無限の戦略が浮かんでいる。
『無欲無敵』の『天才軍師』は、信長を全く恐れてはいなかった。
「しかし、我らの龍興様の政をかえりみないやりようでは、いずれ、家臣の心が離れ破綻することになりますね」
牙が言うと
重治は、『人は、義より利により動く者が、圧倒的に多い。
だが大義名分が整えば、ほとんどの者がそれに従う』
「兵法の基本ですか?」牙は、重治に質問する。
『主君の重要な要素の一つです』
重治は、静かに答えた。更に続ける。
『大陸のように異国に支配されたことの無い我らは、独特であり、絶対的権力に仕えたことが無い。
ゆえに、小土豪が集まって大名に仕えているが、その結束は、盤石なものでは、無い。
大義名分により、同じ目的を持った者は、その目的の為に一つになることが出来る。
その結束も固い。
戦で強さを発揮できる』
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