1将 篭城(ろうじょう)

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 重治は、菩提山城で内輪の花見を催した。  妻の阿古 弟久作 舅の安藤守就 と竹中家臣。  皆で菩提山城から満開の桜を見ながら酒を飲み肴を食べ大いに盛り上がり笑い声がたえなかった。  重治も穏やかな顔で静かに、酒を嗜んでいた。  隣りには、舅守就が居る。 「さすがは、竹中半兵衛じゃ  わしが見込んだだけのことは、あるのお。  婿殿が居れば美濃は、安泰じゃ」 『そうとは限りませんよ。  確かに織田軍を破る自信と戦略は有ります。  しかしながら、それは、あくまでも局地戦、一時のことに過ぎません。  大局を見れば、政をおろそかにしては、やがて国は滅びます』  重治は、沈着冷静に守就を見つめる。 「確かにやがてそういったことになるやもしれぬ」  守就も苦い顔をして酒を煽る。 『龍興様は、舅殿のような優秀な家老達を遠ざけました。  自分のお気に入りを側近とし、政を蔑ろにしております。  家臣や民の心はいずれ離れて行くに違いありません。  手遅れになる前に良政を行うようお諌めするのです』 「しかし、わしはもう散々諌めた。  ゆえに、煙たがられ、遠ざけられている。  婿殿もその煽りをくっているではないか!」 『確かにそうですが、国が滅ぶのを黙って見過ごす訳にも参りません』 「何か策があるのか?」 『策が無いとは申しません。  ただ今は、まだそれを実行する時期ではございません。  時が来ましたら舅殿にもお話します。  それでも変わらなければ...。』  重治は黙り込む。 「変わらなければどうなる?」  守就が聞くと 『仮定の話は、致しかねます』 「相変わらず慎重だな。まあ飲め」  守就は、重治の心を察して話を打ち切り重治に酒を注ぐ。  宴もたけなわとなり最後に、 『こたびの勝利は、皆の力で勝ち取ったものである。  皆が一体となり我が采配を振る限り勝利は我等に有り!』  重治が宣言すると皆は自然と立ち上がり手を挙げて、絶叫していた。  将に迷いがあってはならない。  その迷いが兵に伝わる。  かといって、過度の自信は、驕りを招き油断に繋がる。  故に重治は、常に油断なく、隙が無い。  冷静に戦局を見極め最良の策をとる。  命令は静かだが自信に満ちている。  故に兵は、重治を信じることが出来る。
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