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「美濃には『地の利』があり、国主が優秀であれば、天下をおさめることも可能なのですな」
牙が重治に問う。
『難攻不落の稲葉山城があり都から近く、近江周辺を攻略すれば、上洛は可能となる』
「勇猛な将と兵が居て戦略を練る軍師もここに居る。
しかし、全ては夢物語。
実現不可能ですね」
『現実は、優秀な腹心となるはずのかつての腹心、美濃三人衆が遠ざけられて、自分のお気に入りの斎藤飛騨守(ヒダノカミ)等を側近に取り立てている。
当然三人衆、で元家老、安藤守就の婿である我も遠ざけられている一人。
飛騨守ら、側近は、自分達の保身のみを考え、政を疎かにしている。
いずれ家臣の心が完全に離れ織田氏に侵略されるか、内部崩壊するのは明らかであろう』
「それで殿は、どうされるおつもりか?」
牙が問う。
『出来れば、その前に手を打ち、荒療治ではあるがお諌めして立ち直ってほしい』
それが重治の偽らざる気持ちであった。
自らが国主になるという選択肢は、己の矜持が赦さない。
『無欲無敵』の『天才軍師』に出世欲は無い。
重治は、現実主義者であり、現実離れした空想などに興味は無かった。
そういった意味で『地の利』だけで天下をおさめるなど不可能であり、可能性がないものを考えること自体をやめた。
重治には、頭を働かす事項があまりに有りすぎた。
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