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その策略がいつ頃芽生えたのかは、わからない。
但し、重治がそれを決意したきっかけは明らかであった。
その日重治は、稲葉山城に登城し、龍興に目通りしたが、邪険に扱われ退出した、帰城の途中に事件は、起きた。
城門を潜って間もなく、突然頭の上から、泥水をかけられたのだ。
重治は、一瞬何が起きたのかわからなかった。
頭から足まで泥まみれになっていることをようやく理解した。
頭上を見上げると、仕掛けた斎藤飛騨守が笑い転げている。
しかし、重治は表情を変えず何事も無かったように帰路につく。
この時ばかりは、さすがの重治も怒りを通り越し呆れ返ってしまった。
菩提山城に帰ると重治の姿を見て阿古が心配している。
湯を沸かし全身を洗い衣服を着替える。
その間重治は、無言であった。
『義父殿のところに行って来る。』
冷徹な眼差しに落ち着いた雰囲気。
しかし、阿古は、敏感に感じとっている。
何事かを成し遂げる決意が見える。
安藤守就は、驚いていた。
重治は『主龍興様を諌める為に稲葉山城を落とします。
成功しましたら合図しますので、城の守りに力をお貸し下さい』
淡々と語るが内容が尋常では無かった。
守就は「美濃の主城が竹中の手勢だけで落ちるわけが無い。
どう考えても無謀じゃ!」
守就は、必死で止めるが、重治の決意は変わらない。
『我に策があります』
「婿殿も頑固じゃな。
なにゆえそこまで言い切れるのだ」
守就も半ば飽きれて、ついには諦め折れた。
「城が落ちたなら加勢しよう!」
半信半疑であったが、失敗しても自分に迷惑は、かけないとの約束を信じる。
もちろん重治には、絶対の自信があった。
永禄7年、美濃に天下を揺るがす大事件が起きようとしていた...。
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