1将 篭城(ろうじょう)

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 その策略がいつ頃芽生えたのかは、わからない。  但し、重治がそれを決意したきっかけは明らかであった。  その日重治は、稲葉山城に登城し、龍興に目通りしたが、邪険に扱われ退出した、帰城の途中に事件は、起きた。  城門を潜って間もなく、突然頭の上から、泥水をかけられたのだ。  重治は、一瞬何が起きたのかわからなかった。  頭から足まで泥まみれになっていることをようやく理解した。  頭上を見上げると、仕掛けた斎藤飛騨守が笑い転げている。  しかし、重治は表情を変えず何事も無かったように帰路につく。  この時ばかりは、さすがの重治も怒りを通り越し呆れ返ってしまった。  菩提山城に帰ると重治の姿を見て阿古が心配している。  湯を沸かし全身を洗い衣服を着替える。  その間重治は、無言であった。 『義父殿のところに行って来る。』  冷徹な眼差しに落ち着いた雰囲気。  しかし、阿古は、敏感に感じとっている。 何事かを成し遂げる決意が見える。  安藤守就は、驚いていた。  重治は『主龍興様を諌める為に稲葉山城を落とします。  成功しましたら合図しますので、城の守りに力をお貸し下さい』  淡々と語るが内容が尋常では無かった。  守就は「美濃の主城が竹中の手勢だけで落ちるわけが無い。  どう考えても無謀じゃ!」  守就は、必死で止めるが、重治の決意は変わらない。 『我に策があります』 「婿殿も頑固じゃな。  なにゆえそこまで言い切れるのだ」  守就も半ば飽きれて、ついには諦め折れた。 「城が落ちたなら加勢しよう!」  半信半疑であったが、失敗しても自分に迷惑は、かけないとの約束を信じる。  もちろん重治には、絶対の自信があった。  永禄7年、美濃に天下を揺るがす大事件が起きようとしていた...。
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