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時が経ち夜更けとなり、城内は、静まり返る。
『出陣』
自ら先頭に立ち、油断なく周囲に気を配りながら大広間へ歩み出す。
家臣も無言で付き従う。
やがて守番頭の斎藤飛騨守を見つけると静かに声を掛けた。
『飛騨守殿』
重治の姿は、自然体、但し、一分の隙もなかった。
「半人前の半兵衛が何用か!」
不快と油断が見てとれた。
槍の名手で、槍が不得手の重治を馬鹿にしていた。
重治は、
『勝負』
と叫ぶと同時に、疾風の如く剣を抜き放っていた。
一撃で飛騨守を切り捨てる。
その鮮やかな腕前に一瞬その場に居た皆の動きが止まった。
「これがあの半人前の半兵衛なのか?」
普段の重治の様子を知る守番達は、困惑している。
『城は、我が手中に有り!』
重治が鬼神の形相で、再び叫んだ。
「竹中重治は、この稲葉山城を急襲占拠したのだ」
守番が衝撃を受け戸惑う。
その後、竹中家臣は、剣を抜き向かって来る10人程の守番を次々と倒していく逃げた者は、追わなかった。
その場の決着がついた後。
『散』
重治の合図で竹中家臣が素早く各持ち場に散って行く。
稲葉山城内夜の変事は、始まったばかりであった。
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