1将 篭城(ろうじょう)

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『我が国は、海に囲まれ山が多く平地が少ない。  それが、他国の侵略から自国を守る天然の要塞。  春夏秋冬、各地域により、気象条件が極端に様変わりする。  冬季は、山を越えられず、戦の時期を限定している。  台風や豪雨、による、川の氾濫も、戦の妨げとなる。  地震等の異常気象も頻繁に起きる。  平坦な土地が少なく、平地の多い大陸の兵法をそのまま応用しても、うまくは行くまい』  迷いを断ち切った重治は、ますます兵法書、軍学等の書物を読み込む。  牙は、忍びとしても優秀で、他国のあらゆる情報を収集して重治に伝えていた。 「兵法書を読み記憶しても、実践に役立つとは思えない」  牙の持論は、最もである。  ゆえに重治は、独自の兵法を極めようと日々試行錯誤を繰り返し、研究にのめり込んでいった。  逆に弟久作は、健康体であり父に似て体格も良く、生命力に溢れていた。  外で同じ年頃の子供達と活発に遊ぶことが多かった。  このことは、将来の二人の生き方に影響を与えることとなっていく。 「兄上今日も城に篭られているのですね。外で戦遊びをしませんか?」  久作はたまに誘うが必ず重治は、 『体調が優れぬゆえ遠慮する。  しかしながら、頼みがある。  外の様子や、出来事は、後で必ず教えてくれ』  いつも同じ返答を返す。  何に使うのかは不明。 だが、時々変わったものを取ってきて欲しいと頼まれることがあった。  久作は、兄の要望に応えようと張り切り、その都度探し集めては、重治の元に届けていた。  実は重治は、一人で抜け出し周辺を探索していたが、すぐに息が切れる。  自ら行くことの出来ない急な斜面や離れた場所を久作から聞き取り菩提山城周辺の防衛地図を作っていた。  城が攻められたことを想定しての守りの配置や策を練っていたのだった。  また女性や子供が、投げられる大きさの石を集めさせて、城に備蓄していた。  更に罠を考えたり火薬の調合や実験、研究も繰り返し行っていた。  重治にとって健康体の童のように遊ぶことが出来ないのが何より辛かった。  この時点で無口で弱々しく見える女性のような顔立ちの少年に、将たる器を期待している者は、ただの一人も居なかった。
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