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二呼吸くらいの沈黙の後、唯は、
「…陽の、バカ…」
と、朝と同じ台詞を、
…でも、すごく優しい声で言った。
「足、治して、大会でいい結果出さなかったら、おじさん、怒っちゃうよ?」
「かも、な。」
「どうせ、またやらしいこと考えてたんでしょ。だからケガしちゃうんだよ?」
「うるせっ!男なんて、常にやらしーこと考えてるもんなんだよ」
互いに、もたれあったまま、そんな軽口をたたく。
唯が、いる。
そのことが、そのことだけで、おれの心は軽くなる。
唯と、このまま、いつまでもいたい。
全身で、おれはそう想ったんだ。
その日の夜のニュースで、おれ達の住むとこでも、さくらが咲いた、と流れた。
いつもより、少し遅い春の訪れだった。
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