夏祭り

8/8
前へ
/251ページ
次へ
「…帰る…の?」  本山たちが、完全に人ごみにまぎれてしまってから、唯が小さく聞く。 「花火、見たいだろ?」 「でも、本山くんにっ…」 「今日はさ、…」  唯が言おうとすることを、さえぎって言う。 「お前をエスコートするために来てるんだからさ」 「…でも、典子ちゃんとか、すごい陽と行きたそうだった…」 「いいって。だってほら、ここで唯をエスコートしとかなかったら、次の課題、困っちまうだろ?」  わざと、茶化した感じで、唯の顔をのぞきこんでやる。 「もうっ!バカっ!」  ようやく、唯は笑顔になり、身体を軽くおれにぶつけてきた。  唯が笑顔になってくれたことで、おれは心底ほっとして、そして、唯との二人でいられることに、うれしくて、いつものおれなら絶対できない、唯の手をにぎった。  唯は、ピクッとしたが、それでも、おれの手を離そうとはしなかった。  その時、夜空に色とりどりの花火が開いた。 「キレー…」  唯がつぶやき、二人で、空を見上げる。  おれたちは、次々とあがる花火を見ていた。    おれは、つないだ手から伝わる唯の暖かさを感じながら、心から幸せだと思った。  …この後、嵐が待ち受けてるとも知らずに…。
/251ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3415人が本棚に入れています
本棚に追加