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「…帰る…の?」
本山たちが、完全に人ごみにまぎれてしまってから、唯が小さく聞く。
「花火、見たいだろ?」
「でも、本山くんにっ…」
「今日はさ、…」
唯が言おうとすることを、さえぎって言う。
「お前をエスコートするために来てるんだからさ」
「…でも、典子ちゃんとか、すごい陽と行きたそうだった…」
「いいって。だってほら、ここで唯をエスコートしとかなかったら、次の課題、困っちまうだろ?」
わざと、茶化した感じで、唯の顔をのぞきこんでやる。
「もうっ!バカっ!」
ようやく、唯は笑顔になり、身体を軽くおれにぶつけてきた。
唯が笑顔になってくれたことで、おれは心底ほっとして、そして、唯との二人でいられることに、うれしくて、いつものおれなら絶対できない、唯の手をにぎった。
唯は、ピクッとしたが、それでも、おれの手を離そうとはしなかった。
その時、夜空に色とりどりの花火が開いた。
「キレー…」
唯がつぶやき、二人で、空を見上げる。
おれたちは、次々とあがる花火を見ていた。
おれは、つないだ手から伝わる唯の暖かさを感じながら、心から幸せだと思った。
…この後、嵐が待ち受けてるとも知らずに…。
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