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あの日の放課後、おれは担任からの呼び出を受けたせいで、いつもより帰りが遅れた。生徒玄関には、だれもいなかった。小さく、吹奏楽部が練習する音が聞こえた。
上靴を、自分の場所に入れたとき、
「陽くん!」
向こうから、典子が走ってきた。
「今帰り?」
「ああ、担任に呼ばれてさ、遅くなっちまった」
「そっか。あ、…あのさ、陽くん…」
「どうした?」
典子は、うつむき、何か言いたげに、でも、黙ってしまった。
マネージャーとして知ってる典子は、言いたいことは何でも言うやつだったから、そんな典子がおれも初めてだった。
「どうしたんだよ?典子にしては、珍しいじゃんか」
そんな風に声をかけると、典子はパッと顔をあげ、おれを真正面から見据えた。
「…お祭りのときから、考えてたの。」
「祭りって、夏祭りか?」
「うん。…わたし…手遅れにならないうちに言っときたくて…」
「手遅れになるって…何が?」
少しの間の後、典子ははっきり言ったのだ。
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