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飃藤 轟
私が知ってるのは、モテて、テストを白紙で出して、無表情で。
今、目の前にいる人。
それが飃藤 轟だった。
さっきのガラの悪い男が、「何だ、男連れかよ」と言い仲間の所へ戻っていった。
何を言うこともできず突っ立っていると、腕を持って引かれた。
さっきの怖さのせいか、力が入らないので振り払うこともできずに引かれるままに進んでいった。
誰もいない公園。
寂しく佇むベンチに座らされる。
お礼をした方が良いのは分かっているが声が出ない。
無言が続く。
私も轟もしゃべらない方だ。
情報収集をしていた人が言っていた「飃藤 轟の声を聞いた人はいないらしい」と。余計な「邁も喋らないよね」を付け加えながら。
家でも出さない声を絞り出し「ありがとう」と言葉を紡ぐ。
轟は睨んでいる様に見える細い目を開かせ、驚いているようだった。
私が喋ったのがそんなに驚くことなのだろう。
私だって、久々に出した声に驚いた。
それから、轟は「別に」と言い空を見上げる。
いつもより明るく感じる月の光は満月だからなのだろう。
これからの私達を物語っている様だった。
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