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「生き、る。私に? だが私はまだ、“生きて”……」
美女が頷きかけて、しかし哀しそうに、首を横に振る。
それは肯定とも否定とも取れる行為で、混乱した私はまた、記憶を辿ってみた。
私と妻は、恋愛結婚だった。お互いに大事にして、されて、愛し合って結婚して、子供こそ授からなかったものの、それなりに幸せに生きてきた。
妻の左目下にある黒子がチャーミングだと言っては、照れられて軽く小突かれる。そんな、何処にでもいる、平凡な夫婦だった。
ある日妻の身体に、治る見込みのない病を発見するまでは、本当に幸せだったのだ。
本当に……、幸せだった。
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