第一章・―記憶―

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 痛い。  だが妻を失った哀しみ、苦しみはこんな痛みの比ではない。  妻は逝ってしまった。追い駆けたのに、妻は、行ってしまった。 「助けて……」  多分涙で顔がぐしゃぐしゃになっているだろう。気にする暇などない。大事なのは、妻と再び出逢えるかという事――。 「私を、否、妻を、助けて欲しい」 「貴方は?」  逆に問われる。  何故? 私はどうなったって良い。妻が生きてくれるなら、それでここに留まれる。 「無理よ。だって貴方、まだ生きている。その姿で、里は居心地が悪いんだもの」 「嫌だ」 「螢の光は、“命の光”。貴方はまだ、消えてはいない。どうかまだ、諦めないで」  美女が懇願する。
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