第一章・―記憶―

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 嫌だ。私はまた、あの何もない絶望の現実へ引き戻されるのか? 絶対に嫌だ。戻りたくない。妻はここにいる。ここにいた。  だったら私も、ここで次の生を待つから……! 「お願い。貴方は生きている。諦めないで、生きて。でないと、皆不幸になってしまう」  不幸? 誰が? 不幸なら妻を失ってからずっと味わってきた。  妻のいない現実なんて地獄だ。喜怒哀楽もない、無味乾燥の、全て色褪せた現実なんて、今までどうやって生きていた? これから私は、どう生きれば良い?  忘れてしまった。記憶と共に消え失せた。  涙が止まらない。  なのに美女は、それでも首を横に振るのだ。
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