第一章・―記憶―

4/15
前へ
/30ページ
次へ
 里には賑やかで和やかで、心暖まるような声が飛び交っているのに、ヒトの気配はまるでしない。  代わりに在るのは、そこここを舞い踊る螢の光。  ばらばらに飛ぶ螢。列を成し何処かへ去る螢。立派な店構えの軒先に並ぶ螢……。  まるで螢達が、ヒトに成り代わりヒトたらんとする生活を成し得ているようだ。  そうして木造の、昔ながらの建家が並ぶ里に懐かしいものを感じ見惚れていると、またしても美女が笑いかけてきた。 「気に入った?」  視線を寄越す。だけど分からない。確かに綺麗な場所ではあるが、私という存在は、ここでは場違いな気がして居心地が悪い。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

19人が本棚に入れています
本棚に追加