第一章・―記憶―

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 答えにあぐねる。どうしても、言葉を発する事が出来ない。記憶がない。もどかしい。  どうして私は、ここにきた――?  不意に横切る螢の光。規則正しく列を成し、まるでそこに私という個は存在していないかのような扱いで、彼方から此方へ、ふわふわ、ふわり、ゆらゆらり、飛んで、舞ってゆく。  その中の、一つの光に目を奪われる。  ――あれだ……!  何故だか知れないけれども、唐突にそう思った。否、確信した。  そうだあれだ。私はあの光、ただ一つの光、唯一無二の光のために、ここにきた。  美女の事も忘れ、思わず追い駆けるが、不思議と身体の動きは鈍く、足はもつれるばかりで、少しも行かない内に倒れて、光を見失ってしまった。
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