第一章・―記憶―

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 どうして……。  私が求めているもの。たった一つのもの。ただそれだけなのに――。 「思い出した?」  涙が溢れる。苦しい。記憶が、涙と共に溢れて止まらない。まるで走馬灯のように、流れていくのだ。 「ねぇ。思い出して」  提灯の灯がゆらゆらり。彼女の白磁の肌に、ゆらゆらゆらと、私の心すら、揺らいでしまいそうに、揺れるのだ。  どうしても欲しい。あの光が、どうしても。  あれは妻だ。失った妻だ。護ろうとして、連れ添って、生涯愛して、この両手から零れ落ちて逝った。何よりも、誰よりも、この命よりも大事な女性(ひと)だ。  返して欲しい。奪わないで欲しい。浚わないで、拐わないで、あの光は、私の光だ……!
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