若い僕らの天に唾

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 人を、刺してしまった。  気持ち悪い感触が、いまだ手に残る。滑るように沈み込む刃を見つめ、苦悶に歪む表情。にじみ出す赤。誰かの悲鳴。小さなナイフが少し刺さっただけだから、大事に至ることはないだろう。それでも、警察沙汰に変わりはなかった。  悪いのは、僕だ。クリスマスに、会わなくなった友達と集まることにして、小さな事で揉めて、そこにあったナイフを突きつけて、何も考えられず逃げ出した。ただ、それだけ。 ……なんで、こんなことしてしまったんだろう。何一つ、忘れられない。なんで刺してしまった。なんで逃げ出した。なんで  気分にそぐわない、陽気な音楽が響いた。携帯の着信。もう何十回も無視している。メールも開く気はない。僕を捜し、責める文言に間違いないから。
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