小さなおっさん

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 ――30年後.  私はおっさんになっていた。  会社帰りの国道沿いを、ボロボロのスーツと身体一つで歩いていく。 若い頃は自分もオヤジ狩りに興じた物だったが、今ではすっかり自分が狩られる側だ。  鞄も財布も、それに何故か靴も持っていかれて、タクシーを拾う事も出来ない。  交番に駆け込もうとも考えたが、こんな惨めな姿を晒すのは私のちっぽけなプライドが許さなかった。  風呂嫌いのせいで禿げ上がった頭、運動不足でガリガリの手足と胸板、そのくせ腹だけはだらしなく垂れて……全く、嫌悪感の塊のようなおっさんだ。  だからこうしてオヤジ狩りにも遭うのだろう。  ――フラフラと近くの公園に立ち寄り、鉄と砂の味のする水で傷を洗う。ふと、顔を上げるとブルーシートと段ボールが視界に飛び込む。それも、一つではなかった。 何が「なかよし児童公園」だ。児童よりホームレスの方が多いじゃないか。  私は高校時代にオヤジ狩りで補導された経歴のせいか、肩書きは中間管理職の底辺どまり。 住む家と家族があるだけ、ホームレスよりはマシなのかも知れない、と自分を慰めるが限界も近いだろう。
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