小さなおっさん

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 笑ってくれ。  人間の底辺にいるおっさんを。  最近は数少ない部下にも陰口をたたかれる。聞いてはいない。でも分かる。 ホームレスだって、もう少しマシな精神環境で生活してる。  "鬱"なんてモンじゃない。もっとヒドい。でも医者は鬱の診断書ですら出してはくれない。 自覚がある内はまだ平気、だそうだ。この藪医者め。  自殺も考えた。しかし、それすら面倒だ。何もやりたくない。でも仕事はどんどん増えるし、やらなければならないし、以前と同じ量の仕事をこなしている。馬鹿だ。辞めれば良いものを。  ――カビとゴキブリの巣と化した浴室に入り、シャワーを浴びる。勿論、全裸で。  先週ボイラーが壊れたので、出てくるのは冷水だけだ。私に対する世間の態度のような冷たい水を浴び、思う。  辞めたい。  仕事の事じゃない。人間を辞めたい。人間じゃない何かとして、この水に溶けてしまいたい。  そんな時、ふと"小さなおっさん"を思い出した。中学生の時、風呂で出会った小さなおっさん。私が殺した小さなおっさん。
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