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その問いに女はすぐに答えることが出来なかった。冗談とは分かってはいるが、真っ黒な男の姿が不気味に見えたからだ。
「冗談だって。そんな真剣な顔するなよ」
「ごめん」
男は再びベンチに腰掛け、女の頭を撫でた。
「そろそろ帰ろう、明日も学校だし」
二人は同時に立ち上がり、空を見上げた。金貨のように輝く満月と宝石のような星。雲ひとつない素晴らしい夜空だったが残念ながらタイミングよくUFOは通過してくれなかった。
「今日は宇宙人も忙しいらしい」
「もう飽きちゃったんじゃない?」
「かもな」
その時である――笑いながら手を取り、踵を返した二人の背後でなにか巨大な水風船を壁にぶち当てたような音が響いた。
「な、なに……」
「さぁ……」
その音の方向を振り返る。ガサガサと草木が擦れる音が響いていた。
「なにか、いる」
「ッ……」
二人は金縛りにあったようにそこから動けなくなった。男は女をかばうように立ち、近づく音に耳を澄ましている。音はどんどんと二人に迫ってきている。足音のような規則的な音が二つ。
「ねぇ、逃げなきゃ!」
「あ、ああ」
女が得体の知れないものの接近に叫ぶが男は小さく頷くだけで動こうとはしない。男は恐怖心のなかにも好奇心が生まれるのを感じていた。
――なにが出てくる。
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