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『――』『――――』
聞こえたのは声。否、それは声とはいえない黒板をひっかくような不快な音の会話だった。
目の前の草むらが揺れた。それを最後に音が止む。
聞こえるのは風が草木を揺らす音と風の音。そして――獣のような荒い呼気。
――再び草むらが揺れる。
「キャッ!」
「ッ!」
現れたのは二メートルはあろう歪な人影が二つ。熱のこもった白い呼気を吐き出し、その影が月光を浴びてぬらりと光った。
逃げる暇も、腰を抜かす暇もなかった。
不思議なことに悲鳴も上がらなかった。
否、上げられなかった。男女の開かれた口から漏れているのは悲鳴ではなく、嘔吐くような音だった。ごぼごぼ、ごぼごぼと排水溝のような音が漏れている。
得体の知れない人影は一瞬でその輪郭を溶かし、二人の口から体内に侵入していった。
不気味な音を立てて二人の口に緑がかった黒い液体が入り込む。すべてが男女の口のなかにどろりと吸い込まれると二人はその場に倒れ伏した。
五分後、「空からなにかが落ちた」という連絡を受けた観測所の職員がその公園に足を踏み入れる。
――そこには廃れた公園の風景があるだけでなにもなかった。
ただ、濡れたような跡が月光にぬらりと光っていた。
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