第一章

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私は引っ越してきたばかりの一人暮らしのマンションを出ると、大きく一歩を踏み出した。 入社式の会場は配属先の店舗ではなく、当然本社で行われる。 その為私は電車を使って本社まで足を運んだ。 今日から5日間の研修期間中はここまで通わなければならない。 そしてその期間を終えて晴れて配属先の店舗で働くことになるのだ。 研修中に行うことは主に接客に関すること。 接客の質を落とさないように、また、接客の全店舗の統一化を図るためのもので、私達新人の初めての仕事はこの研修を受けることなのである。 私は緊張で心臓をバクバクさせながら本社ビルへと足を踏み入れた。 はぁ…緊張しすぎてお腹いたくなってきたよ…。トイレトイレ……。 私はトイレを見つけると、駆け込んだ。 用を達し鏡の前で最終チェックをしていると同じようにスーツを着た若い女性が入ってきた。 …若い…けど大人っぽいし私より年上かな…? 挨拶した方がいいよね? チラチラと化粧直しをしている彼女を鏡越しに盗み見る。 「あ…の、おはようございます!」 おずおずといった様子で私が挨拶すると、彼女は一瞬キョトンとした後にニッコリ笑った。 「おはよう。私も今日から入社する新人だよ。宜しくね」 彼女の言葉に少し緊張がとれ肩の力が抜けた。 「あ、そうなんだ。大人っぽいし本社の人なのかと思っちゃった。こちらこそ宜しくね」 「あはは、私ふけてるからねぇ。じゃあお先に~。」 化粧直しを終えた彼女はそう言って荷物をまとめて出ていった。 え…?どうしよ…。怒ってるようには見えなかったけど、大丈夫…だよね? 私は彼女の台詞に自分の言葉が不愉快に感じたのではと不安に思ったが、笑っていたし大丈夫だろうと自分に言い聞かせ、会場へと向かった。 会場につくと椅子がズラリと並べられており、受付のようなところで配属店と名前を言うと奥から積めて座るよう指示された。
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