あさぼらけ

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ある人がこんな言葉を残した……… 人は大きな恩を忘れるくせに、小さな恩ばかり返したがる……… 秀勝(しゅうしょう)は蒸し暑い部屋の天井にとまるハエを睨みながらささくれの目立つ畳の上に寝転んでいた。時折ハエがブンと飛んでは狭い室内を一周し秀勝の野太いふくろはぎにとまろうとする。秀勝はそれを目で追いハエがとまろうとする寸前にギュッとふくろはぎに力を入れコブを作る。するとハエは異変を察知して再び室内を飛び回り天井に張り付く。そんなことをもう何十回繰り返している。秀勝は寝転んだまま薄いガラス一枚が張られただけの窓を見上げた。太陽の光線が容赦なくガラス窓を照らし今にもガラスが溶けそうだ。もうじき秀勝はこの灼熱の太陽の下へ繰り出さねばならない。秀勝が再び天井へ目を戻すとハエはどこかへ消えていた。“そろそろ来るか……”秀勝は体を起こし畳の上にあぐらをかいた。白いTシャツとジーパンの上からでも見てとれるほどの鍛え上げられた筋肉はゆるんだ状態でもかなりの迫力があった。皮膚は今年の猛暑でジリジリ焼かれて真黒く光っている。それはまるで戦車のように。
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