名忘れの図書館

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まどろむような霧(きり)の中、微(かす)かにその建物は姿を現した 元は白であったはずの外壁は、なんの植物かもわからない蔦(つた)で覆(おお)われ 霧から突き出る赤い煉瓦(れんが)の屋根は、長い長い時を経(へ)て 血のように濁(にご)った色に変わり果てていた まわりは霧で覆われ、全く景色はみえず 微かに見えたかと思えばまた深い霧の中に隠れてしまうのだ それでも何かに導かれるように建物に近づいていくと 遠くからでは見えづらかったものが徐々に見え始めた それは、古びた館であった もしかすると、ここが噂に聞く図書館なのかもしれない 館の入り口を塞ぐ 大きくてかつ傷(いた)んだ扉 その真上を見上げると、なぜこの大きさなのに 近づかねばわからないのかと思える程の大きな 時計があった だが、その時計はきっちり十二時を刻んだまま もう永久(えいきゅう)ともいえる時間 止まっていた もしかしたら この時計のように この場所は時が流れていないのかもしれない 仮にそうだとしたら 目の前の扉は開かないのではないか そんなことを思う間に 扉はゆっくりと開いた 何かを訴えかける悲鳴のような音を上げて 私たちを吸い込んだ
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