欲望

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「お前頭大丈夫?」「イカれてるよ」「やだ、キモーい」「あっち行けよ!」「こっちこないで」「触るな」「変人」「狂人」「もう関わりたくない」「もう顔も見たくない」  冷たい目で見下され、罵られ、避けられた。そしてついに―― 「きもちわるい」と、少女にも拒絶された。少年の中で、何かが壊れた。  少年は他人に話すだけでは意味がないと考えた。 「じぶんが行動で示さなければ。人類の中で一番最初に、人の本当の幸福を見つけた自分が手本を見せれば、皆気づくはずだ」  と、少年は思い立った。「待てよ……」と考え直した。自分ひとりでは実現が不可能かもしれない。それに自分だけが偉業の栄誉を独占するのは自分以外の人々が可哀相だと思ったのだ。かといって、大人数で栄誉を山分けというのは納得がいかなかった。人数が多ければ多いほど、栄誉が安っぽく見えてしまうのでは、と危惧した。  そこで、少年は二人だけにしようと考えた。自分と、あの少女の二人だけ。人類の中から選ばれた自分と彼女。まるでアダムとイヴのようだと少年は思った。  少年はまずは彼女を解放しようと考えた。 「彼女の心の奥底で眠る欲望を開放しなければならない。他の誰でもない自分がやるんだ」  ……少年は固く信じ、右手に肉切り包丁を握った。少年がこれから裂くのは少女の美しい肢体。少年は彼女の欲望を開放するには物理的に体を裂くしかないと考えたのだ。少年自身も自分の欲望を解放するために体を少しばかり裂いた。主に手首を、綺麗な剃刀で。
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