欲望

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 少年は彼女の甘美な鮮血と美しい嬌声を想像し、体が歓喜に震えた。少年の目の前に居る少女は生まれたままの姿。しかも、両手を釘で壁に縫いとめられている。まだ、血が流れているが少年が手当てをしようとする様子はない。  それどころか、少年は少女に見蕩れていた。かのキリストを凌ぐほどの神々しさ……やはり自分の目に狂いはなかったのだ、と。それを認めるかのように、少女も口の端を吊り上げ、狂気染みた笑みを浮かべている。少年に連れ出されるときこそ力いっぱい暴れて抵抗していたものの、今はとても大人しい。叫びも暴れもしない。最初に暴れていたのは喜びからくる興奮だったに違いない、と少年は思った。少年からすれば、少女は世界で一番初めに人の本当の姿に戻れる、世界一の幸せ者なのだから。  少年の心臓の脈動は激しい。体温は高く、息は荒い。少年はとても幸せそうな笑みを浮かべながら、肉切り包丁を構えた――
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