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ハンドソープで綺麗に手を洗い、その手を額に当てる。興奮した体は少し熱を持っているように感じた。
「あんなことでムキになるなんて」
鏡の中の自分に向かってぽつりとつぶやく。
ただの昔話を私だけが重大な事みたいに捉えて。バカみたい……
いっそ知らないままでいたかった、あの頃の坂下くんの気持ちなんて。
聞いてしまった事はもう戻せないから、「よし、もどろ」と自分に気合を入れて化粧室でた。
席に戻るとノリちゃんは下を向いたままで、私がイスに座るとその顔をやっと上げた。神妙な面持ちのまま、
「クルミごめんね、私……」
ノリちゃんが全部悪いわけじゃない。
「ううん、私こそごめん。あの頃私の事好きだったのかもなんて坂下くんが言うからちょっと動揺して…―」
「はぁ?!」
さっきまでの顔とは大違いで眉間にしわを寄せ、こちらに迫ってくる勢いでノリちゃんが言う。
その勢いに押されつつも「あ、あの。ちゃんと話すからちょっと落ち着いて」と言って、ノリちゃんを自分の席に座らせる。
早く言いなさいと言わんばかりのノリちゃんの顔を見ながら、
「だから言われたのはあの頃の気持ちであって、今じゃないから」
「でも、なんで?」
「何で今?って?……ほんとだよね、なんでだろ」
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