第2話

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第2話

桜木君は朝学校へ来ると窓辺で緑に水をあげる。 と言ったって、僕のクラスに鉢植えの草木がある訳じゃない。 窓から頭を出し自分の髪に水をかけるのだ。 彼の髪が濡れた姿はまるで、雨上がりの草についた露が光り輝くようだ…っていうか実際そんなようなものなのだが、クラスの女子達は桜木君の回りを囲う。 『ねぇ桜木君、いつもあぁやって女子達に囲まれていると息苦しいでしょ?』 と聞いた僕に彼は 『いや…全く。むしろいいと思う。』 『なんで!?』 『…お腹いっぱいになるし』 『……。』 彼は植物人間で、これは光合成なわけだ。 彼は日と水を浴び、二酸化炭素を吸い酸素を吐く。 だから彼のそばにいると酸素浴ができるわけだ。 『桜木君ってさ、人込みとか好きでしょ?』 『まぁ。でも、高いビルとかの影にならない、幹線道路の脇とかのが好きだな。…今度一緒に行くか?』 『いや…遠慮するよ…』 僕、重枝尚登は彼桜木草太の観察日記を付ける事を生きがいにしている、極普通の高校生だ。 これは彼が学校に転入してから一か月後のある晴れた朝の事。 登校して来た彼に誰もが度肝を抜かれた。 彼は頭に白い網状の袋をすっぽり被っていたのだ。 いつもの如く皆の視線が僕に聞けと集中した。 『えっと…桜木君。その頭どうしたのかな?怪我したの?』 『いや…。実に虫が付くから。』 『……実………。』 『さくらんぼだ。』 そういえば転入した当初彼の頭には桜の花が咲いていた。 『なんだ?さくらんぼを知らないのか?』 『いや知ってるよ。知ってるけど…』 『なってるとこを見たことがないのか?』 『うん…。見たことないねぇ…』 (人の頭になってるのは…。) 『生ったら一つ食わせてやるよ』 『えっ!本当っ!楽しみ~っ!』 僕は家に帰りこの日記を書いていて気付いたのだが、それって僕が桜木君…もしくはその子供?を食うという事になるんではないだろうか………? 僕は深く考えもせず喜んでいた数時間前の自分を心底呪った。 あれから数日桜木君のさくらんぼは順調に成長を続けていた。 その成長に合わせるように桜木君の防虫ネットは防鳥ネットへと替り、桜木君はCDを体にぶら下げたり爆竹を定期的に鳴したり、鳥対策に熱心に励んでいた。 その姿はさながら子を守る母の姿のようだった。
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