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耳にじっとりと張り付いて離れないような低くて陰気な声が電話口から発せられる。
私は忙しさに身を任せるようにして、日々こうして掛かる電話の応答から逃れることができていたのだが、今日という日は何故かうっかりしてボタンを押してしまったのだ。
「やっととってくれましたね。昨日も一昨日もずっと、あなたの声を聞きたくて掛けていたのですが、やっとの思いで取ってくれました。御忙しいことと思いながら、貴方の事を想い今日という日まで自分に自戒を言い聞かせていました。今でもええ、言い聞かせていますよ。でもよかった。ほっとしました。お元気そうですね」
「はあ、どうもありがとうございます。私、確かに忙しかったですけど、貴方の方が御忙しいお仕事をなされていらっしゃるのに、ご心配をお掛けしましたね。そういえば今、どこにいらっしゃるんですか?」
予期できない川の水鉄砲のように急で飲み込むような妙な気迫を孕んだお話に、ついつい牽制していたその電話口の人に口を割ってしまう。性分の負けず嫌いとお人好しがこの時ほど身悶えさせることととは思わなかったが、その実必死な自分を隠すことで精一杯で、ただ震える声を抑えることに専念することばかり、話す内容なぞ到底そんな臆病な自分を配慮していられなかった。つまらない会話だった。
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