2章 龍ヶ淵

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「斗生!!」 「カイリ、よく来た。…妾の、愛しい仔…」 「やはり、予感が当たったか。斗生、しっかりしろ」  血に濡れて臥す彼女の肌は所々に黒く斑に染まり、毒々しい腐臭を放っている。 「どうして、もっと早く俺を呼ばなかった…? こんなになるまで、辛かったろうに」  立ちこめる腐臭も厭わず、カイリは淵の岸に横たわる龍の頭を抱き締めた。 「カイリ…来てくれたのね」  青い隻眼を細めて、カイリの養母・斗生はゆるゆると人型に姿を歪ませる。 「カイリ、もう分かっておるのだ。妾は…もう助からぬ…。これが寿命という物なのだと、やっと分かったよ。その前に、少しお前の顔が見たくなった」 「情けないこと言うんじゃねえよ! いつもみたいに勝ち気な斗生はどこ行った! なにか方法くらい見つかるだろうっ」  カイリは斗生の血で汚れた頬を拭って叫ぶが、斗生は力なくただ涙を流すだけだ。 「お前は…優しい子。…昔から、そういうのは変わらぬな」  カイリの脳裡に一瞬、映像がよぎる。  夥しい血と涙。  強い既視感に誘われて記憶に耳を澄ます。
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