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「斗生!!」
「カイリ、よく来た。…妾の、愛しい仔…」
「やはり、予感が当たったか。斗生、しっかりしろ」
血に濡れて臥す彼女の肌は所々に黒く斑に染まり、毒々しい腐臭を放っている。
「どうして、もっと早く俺を呼ばなかった…? こんなになるまで、辛かったろうに」
立ちこめる腐臭も厭わず、カイリは淵の岸に横たわる龍の頭を抱き締めた。
「カイリ…来てくれたのね」
青い隻眼を細めて、カイリの養母・斗生はゆるゆると人型に姿を歪ませる。
「カイリ、もう分かっておるのだ。妾は…もう助からぬ…。これが寿命という物なのだと、やっと分かったよ。その前に、少しお前の顔が見たくなった」
「情けないこと言うんじゃねえよ! いつもみたいに勝ち気な斗生はどこ行った! なにか方法くらい見つかるだろうっ」
カイリは斗生の血で汚れた頬を拭って叫ぶが、斗生は力なくただ涙を流すだけだ。
「お前は…優しい子。…昔から、そういうのは変わらぬな」
カイリの脳裡に一瞬、映像がよぎる。
夥しい血と涙。
強い既視感に誘われて記憶に耳を澄ます。
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