2章 龍ヶ淵

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(――――血? なんだ、ひどく引っ掛かる。なんだ?!)  脳裡の深い場所、あわいと繋がる暗闇でせせらぎが聴こえる。 『カイリ、カイリ死なないで!必ず助ける、だから、だから…頑張って!』  雫が水面に落ちて紋が描かれ、水鏡に顔が映る。  記憶の中には、目に大粒の涙を溜めた斗生がいる。  全身を禍々しい黒斑に蝕まれた子供…あれは、自分だ。  そういえば、今の斗生と同様に蝕まれた時、自分を救ったのは斗生だった。 『龍の病は同族にしか癒すことはできぬ…。助かって、よかった…』 「そうか。そう、だったな…」  記憶の回路を遮断したカイリは、記憶を元にようやく理解した。  キーワードは血!  なぜなら、その血には浄化作用があるからだ。 「血だ。俺の血を使えばいいんだ」  それならば、この夥しい血の海にも納得がいく。  斗生は、それに気づいていたのかも知れない。 「カイリ?」  カイリが己の掌にがりりと牙をたてると、掌にはたちどころに赤い液体が溜まった。  血の気のない肌色のまま儚い微笑を浮かべる斗生に、カイリは掌を差し出した。 「斗生、飲んでくれ。これでいいはずだ」  斗生は弱々しく頷いてカイリの掌に唇を寄せる。 「そう、そうだ。ゆっくり飲め」  彼の掌に口づけた斗生の身体が、次第にぼんやりとした光を放ち始める。  それにつれ、彼女の五体を蝕んでいた斑が跡形もなく消えていった。
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