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(――――血? なんだ、ひどく引っ掛かる。なんだ?!)
脳裡の深い場所、あわいと繋がる暗闇でせせらぎが聴こえる。
『カイリ、カイリ死なないで!必ず助ける、だから、だから…頑張って!』
雫が水面に落ちて紋が描かれ、水鏡に顔が映る。
記憶の中には、目に大粒の涙を溜めた斗生がいる。
全身を禍々しい黒斑に蝕まれた子供…あれは、自分だ。
そういえば、今の斗生と同様に蝕まれた時、自分を救ったのは斗生だった。
『龍の病は同族にしか癒すことはできぬ…。助かって、よかった…』
「そうか。そう、だったな…」
記憶の回路を遮断したカイリは、記憶を元にようやく理解した。
キーワードは血!
なぜなら、その血には浄化作用があるからだ。
「血だ。俺の血を使えばいいんだ」
それならば、この夥しい血の海にも納得がいく。
斗生は、それに気づいていたのかも知れない。
「カイリ?」
カイリが己の掌にがりりと牙をたてると、掌にはたちどころに赤い液体が溜まった。
血の気のない肌色のまま儚い微笑を浮かべる斗生に、カイリは掌を差し出した。
「斗生、飲んでくれ。これでいいはずだ」
斗生は弱々しく頷いてカイリの掌に唇を寄せる。
「そう、そうだ。ゆっくり飲め」
彼の掌に口づけた斗生の身体が、次第にぼんやりとした光を放ち始める。
それにつれ、彼女の五体を蝕んでいた斑が跡形もなく消えていった。
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