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「…思い出した。妾も、むかし蝕まれたお前に同じ事をしたね」
「そうだ。思い出せて、本当に善かった」
カイリは僅かに滲む涙を片手で拭ってから、斗生を強く抱き締める。
斗生もやんわりとカイリの背中をを抱きかえしながら、やがて哀しげに呟いた。
「迷惑をかけたな…。この者たちの供養、手伝うてくれるか?」
「…もちろんだ」
斗生を蝕んでいたのは、開発排水による穢濁および穢瘁である。
淵の穢濁も消え、カイリは再び母の許を去らんとしていた。
「ねえ、カイリ。まだ戻る気にはならないか?」
風に舞う桜の花弁が、斗生の黒髪を撫でていく。
沼の端に咲く桜の大樹の傍、2人(?)は寄り添っていた。
「まあな、まだ知ることが多いもんで…。もうねえとは思うけど、なんかあったらすぐ呼んでくれよ?」
「分かってるよ」
ひとひら、一片と舞い散る桜が斗生の美しさを際立たせている。
「ホントかよ」
美貌の2人が寄り添うと、それは恰も一匐の絵画のようだ。
「ホントさ。お前は心配性だ」
嫣然と微笑んで、斗生は躊躇なくカイリの額に口づける。
「そっか。じゃ、また何かあったら絶対呼ぶんだぞ。いいな?」
「ああ」
「……よし」
カイリは人でも妖でもある、間(あわい)に棲まう『祓い師』だ。
不思議なるものを従えて、彼の旅は…今日も続く。
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