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【お前は我ら妖を視るもの。神眼を有する「あわい」の者。いいかね? 我らのことを、 消して人に話すでないよ。文字にしてもいけないからねぇ】
「わかった、分かったよ…」
汗ばんだ掌を握りしめ、少年・カイリは後ずさる。
【よぅし、約束だ。約定破りし時は…そうさな、お前を喰らいに行くからね】
―――よく、憶えておきな。小さな人の仔。
我らはどこにでもいる。
いつも、見ているからね。
闇に浮かぶ無数の異形の目が、陽気に妖気にひしめき笑う。
幼いカイリは、僅かでも道を違えれば発狂する殺気を押しつけられながら口頭での「約束」を交わした。
「エンジュ、来ておったのか」
「や、闇が喋った?!」
ふい、闇の中から穏やかな声に呼ばれ、驚いたカイリは思わず父親の陰で凍り付く。
「これ、カイリ…」
僅かに父が笑う気配がして、羞恥心で頬が赤く染まる。
仕方ないだろう、怖いものは怖いのだ。
ちなみにエンジュというのは父親の名だ。
さり、と草履の音がしたと思うと視界全体を遮っていた澱んだ闇が、綺麗さっぱりと消え失せていた。
「斗生…久しぶりだね」
「ほんに、久しいの。だが今は取り敢えず挨拶は抜きにしような。ん?」
「ひ!」
目が、合った。搗ち合ってしまった!
「な…なんだよお前…見るな、見るなよっ」
ふたたび目線が刺さり、居たたまれなくなったカイリは父親の陰に隠れて獣の仔のように威嚇する。
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