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「その童が…おんしの跡取りかえ? 雑魚どもがよう騒いでおったわ。ほう…おんしによく似て、活きのよい童っ子じゃの」
「活き!? あんた、ひ…人を食うの、か?」
活き…といえば、嘘か本当か知らないが、妖者は人の活き肝を好んで食うらしい話を大人から聞いたことがある。
ばりばり頭から食われるのか!?
「ほほほほ、嘘じゃ嘘。かわゆいの」
「…ほんとか?」
「おや、疑うのかえ? 大丈夫じゃ、盟約に搦め取られた妖はなにもせぬよ。菓子をやろう、こちらにおいで」
声音と同じ穏やかな青い瞳に見つめられたカイリは、促されるがままに手を伸ばした。
たおやかで優しい手が、ゆったりと引き寄せて傍らに座らせる。
顔を上げたカイリは一瞬、驚きに息を呑んだ。
「きれい…」
そこには紫陽花色の地に蝶が舞う、艶やかな着物を纏った黒髪の天女がいた。
「うん?」
彼女は袖から飴玉を取り出すと、惚けているカイリの掌に鼈甲飴を握らせた。
彼の時代に飴は高級品であり、鼈甲飴ともなれば庶民は決して口にできない代物だ。
「妾を褒めてくれるのかえ。よしよし、いい仔だ。よい具合に神眼も開眼済みだしの…」
「おや、飴をもらったのか」
割り込んできた父親の声に振り向くと、穏和な顔で微笑む父がいて
「父上、この方は?」
気づけば、矢継ぎ早に彼女の正体を問いかけていた。
「彼女は斗生。私の、大切な相棒だよ」
「こ、こんにちは」
「はい、こんにちは。賢そうな仔じゃあ」
慌てて頭を下げたカイリに、傍らの天女…いや、斗生は涼やかな目元を和ませる。
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