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「ほんに善い仔だこと。利発で、力も申し分無い」
「あぁ…」
エンジュは、ひたすらに穏やかな顔で斗生を見つめ返している。
けれど、その目差しはどこか悲しげだ。
「良いのか、エンジュ。予ての約束どおり、この仔は妾が預かろう。しかしおんしは…心残りではないのか?」
「父上、それは…なんの話?」
会話に付いて行けず、しきりに落ち着かないカイリに目を細めながら斗生は悲哀を滲ませる。
業をこんな幼子に背負わせるには、些か酷すぎやしないだろうか。
「カイリ…お前の父上はもうすぐ還らなければならぬ」
「還るって、どこにだよ…」
「そうさな…理の中にと云えばよいかの」
「輪廻というやつか」
「そうじゃよ、おんしはやはり賢い。エンジュは人の時を超えて在りすぎたからなぁ」
「父上は、いつから生きていたんだ?」
「妾がまだ、龍の仔であった頃でな…ゆうに3000年は生きてきた」
「さ、3000年?!」
「だからこそ、還るのだよ。従って代替えは避けられぬ。こやつの身体はもう、限界なのだ」
人として、生き過ぎた身体は脆く…衣の下は既に片側が崩れ去って存在していない。
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