2章 龍ヶ淵

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「ちっと訊ねたいんだが、龍ヶ淵ってのはどっちかね?」 [この雨に呼ばれるモノは多い、ここより真北に行けばいいよ。ごらん…水馬が行く]  言われて灰色に澱んだ宙を見あげると、水銀色の一見青く見える鬣を振り乱して水馬が曇天を駆けていくのが見えた。 「一頭くらい、持ってた方が便利そうだよな」 [かか。面白い奴だ。お前さん、龍だろう。飛ばぬかい] 「長い距離を飛ぶのも疲れんだよ」 [ふーん。あれを狩るというのか? ムリだと思うぞー?]  ころころと笑う谺に、カイリも苦笑いを浮かべた。  確かに、彼女の云う通りなのだ。  しなやかな四肢に優美な青い鬣を持つ馬の姿を持つ妖、水馬。  彼の一族は誇り高く、気性が荒いことで有名だ。  その身に巨岩をも砕く剛力を潜めているので、何人も忌避する妖の一柱でもある。 [龍ヶ淵は真北だよ、お兄さん] 「真北だな。ありがとう」  荷を背負い直したカイリは、若い谺の樹を離れた。 「斗生のヤツ、元気かな…」  カイリは懐から1枚の書簡を取り出した。  通常なら水が触れるとふやけてしまう紙だが、彼が手にしているのは単なる紙ではない。龍の鱗でできているため、水に強いのだ。  書簡の差出人には、恐ろしく達筆な字で「龍ヶ淵」と記されている。  そう。  カイリは書簡の差出人である「龍ヶ淵」の主・斗生に呼ばれてやってきたのだ。
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