はじまり

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私は幼い頃、一日だけ行方不明になったことがある。その時の記憶はないけど、蝉の声…蜩の声だけは耳の奥に鳴り響いて離れない。それから、私の目には他の人には、映らないモノが映るようになった。そんな私に対して世界は優しくはなかった。その時幼かった私は戸惑った。親に相談しても、友達に相談しても信じてくれなかった。信じないのもあたりまえだ。人は自分の目に映るモノしか信じないのだから。だから私は口を閉ざした。だって、私には見えてしまうのだから。私が見えない自分を演じればいいだけなのだから。それでも、私には見えてしまう。見えないふりをするのは難しい。その小さな苦は私の中に少しずつ積もっていくのであった。 しかし、見えないモノたちは私を放っておいてはくれない。私を困らせるモノ、周りに被害を与えるモノ。確実に私の前に存在している彼らを、ないモノとして生活するのは辛い。だから私は、独りになった。取り繕う必要がないように。 最初は寂しさを感じていたけど、慣れとは怖いもので私の中にあった寂しさをどこかにつれていってしまった。友達なんか要らない。そう思っていた。あの時まで……。
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