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「ルクレツィア!」
嬉しそうに走ってくる少女の姿を見つめ、名を呼ばれた娘は籠を抱えたまま立ち止まる。微笑みを浮かべながら。
「おはよう!ルクレツィア」
立ち止まった娘の細い腰に、走ってきた勢いそのままに抱きつく。よろける娘が籠を落としかけるのも気にせず、少女は笑う。
「今日も朝一番にルクレツィアに会えた」
「おはようミク、今日もいい天気ね」
籠をしっかりと抱え直して、娘は笑う。
「毎朝タックルご苦労様」
ミクの頭に当たらないように高く掲げた籠には、まだ朝露光る薬草の束。
「今日はなんの薬草摘んできたの?お手伝いする?」
「今日はこのジキタリスを乾かすのよ」
籠の中には薄紫の花が鈴なりに咲いている薬草。
「キレイなお花ね。薬草じゃないみたい」
「そうね、この『狐の手袋』はそこら辺りにある薬草だから割とよく見るわね」
でも。と声を少し潜め、ミクの耳にそっと囁く。
「大量に体内に摂取すると毒になるの」
「そんなの、知ってるわ。薬だっていっぱい飲んだら死んじゃうもの」
まるでぶら下がるように、ミクは娘の腕を放さず、明るく語る。
「呑んべの山羊追いのおじいさんが、街のお医者さまから貰った風邪薬、一気飲みして死んじゃったってみんなが話してた」
きっとお酒と間違えたのねと、残酷に人の死を笑って切り捨てる。
「…私の薬を信用してもらえてたら…」
哀しげに俯く友人の、そんな表情見たくなくて。ミクは早口に死人の悪口を紡ぐ。
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