二章 ~過去~ 郊外の農村にて

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「ルクレツィア!」 嬉しそうに走ってくる少女の姿を見つめ、名を呼ばれた娘は籠を抱えたまま立ち止まる。微笑みを浮かべながら。 「おはよう!ルクレツィア」 立ち止まった娘の細い腰に、走ってきた勢いそのままに抱きつく。よろける娘が籠を落としかけるのも気にせず、少女は笑う。 「今日も朝一番にルクレツィアに会えた」 「おはようミク、今日もいい天気ね」 籠をしっかりと抱え直して、娘は笑う。 「毎朝タックルご苦労様」 ミクの頭に当たらないように高く掲げた籠には、まだ朝露光る薬草の束。 「今日はなんの薬草摘んできたの?お手伝いする?」 「今日はこのジキタリスを乾かすのよ」 籠の中には薄紫の花が鈴なりに咲いている薬草。 「キレイなお花ね。薬草じゃないみたい」 「そうね、この『狐の手袋』はそこら辺りにある薬草だから割とよく見るわね」 でも。と声を少し潜め、ミクの耳にそっと囁く。 「大量に体内に摂取すると毒になるの」 「そんなの、知ってるわ。薬だっていっぱい飲んだら死んじゃうもの」 まるでぶら下がるように、ミクは娘の腕を放さず、明るく語る。 「呑んべの山羊追いのおじいさんが、街のお医者さまから貰った風邪薬、一気飲みして死んじゃったってみんなが話してた」 きっとお酒と間違えたのねと、残酷に人の死を笑って切り捨てる。 「…私の薬を信用してもらえてたら…」 哀しげに俯く友人の、そんな表情見たくなくて。ミクは早口に死人の悪口を紡ぐ。
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