一章 ~現在~ 時計搭前広場にて

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一章 ~現在~ 時計搭前広場にて

小さく、息を吸い込んで。 その、まっすぐに見つめ返す瞳を閉じて。 喪服のような黒衣の胸元に片手を当てて。 少年は歌い出す。 まだ変声期前の澄んだ声が響く。 『さぁ 見てごらん悲しいお話』 同じ顔をした少女が言葉を続ける。 『さぁ ハンカチの用意忘れずに』 色とりどりの市場のテントが並ぶ石畳の広場。目印にもなる大きな時計搭のその下に。 二人の歌うたいは瞳を閉じたまま歌い出す。 今は小さな王国の、少し前までは処刑すらも娯楽とされていた時代、何人もの罪人を殺害したこの広場で。どこからともなく現れて、歌い出した双子。 太陽の光のようなその髪を、乾いた風が梳いていく。その風に乗って、歌声が広場中に広がっていく。 好奇心、暇つぶし、歌声に魅了された者など戯れに足を止める者がいつの間にやら増えていき、まだ幼い双子の姿は隠れてしまう。 誰もが歌声の主を見ようと前ばかりに注目し、爪先立っているなか。薄汚れたローブを目深に被った男の姿など、誰一人気にもとめもしない。
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