前途多難なスタート~序章~

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放課後の教室で僕は彼女と机を挟んで向い合せに座っていた。 机の上には数学の教科書とノートが置かれ、彼女のノートにはみっちりと公式が書かれ、僕のノートは残念ながら漂白剤をぶちまけたかのように真っ白である。 「……無理だ、諦めよう」 「早いよ、まだ15分しか経ってないよ」 あっさりと挫折を決め込む僕に彼女は呆れていた。 「ここで諦めたら赤点確定だよ?」 黒髪ロングのウェーブヘアをシャーペンに巻きつけながら、当たり前の事実を彼女は残酷にも突き付けてくる。 「出来ればもう少しオブラートに包んだ言い方をしてよ」 「赤点にオブラートを包むの? う~ん、う~ん、失点とか?」 「うわ、それは暗に僕が勉強していないが故の自業自得だということをアピールしているじゃないか」 「事実だよぅ」 ていていと彼女は楽しそうに机の下で僕の足を軽く蹴ってくる。 やれやれ、本当に変わらないな。 二人で過ごす日々は本当に穏やかで、何の曇りも不安もない。 手を伸ばせば何時だって触れられる。 視線をそっと向ければいつでも目が合う。 それが僕と彼女にとっての当たり前――――だった。
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